いつものベンチには、見慣れない人影がある。

すっごいデブ猫を抱いて、困った顔でオレを見上げてくる、多分20代後半って感じの男の人。

まあ、世の中猫好きな人は数え切れないぐらいいるし、好きな猫のタイプだってそれぞれだろうし、だから別にいいって言えばいいんだけど。

何が胡散臭いって、こんな時間、こんな場所で白衣を着てるってこと。

そりゃ、こっからしばらく行った所はオフィス街で、研究室を持ってるような大企業が幾つもあることは知ってる。

けど、今は11:00。

常識で考えて、公園で鮭弁当を食べてる時間じゃない。

百歩譲って、忙しくて夕食が遅くなった挙句、気分転換にオフィスを出てきたんだとしても、買い物に行く時ぐらい、白衣は脱ぐもんだろう。

【野並】
「えっと…その……」

思わずジロジロと見ちゃったら、おっさん(10歳も違えばそう言ってもいいと思うんだ)は、オロオロと猫を抱き締めてる。

なんかよくわからないけど、とりあえず、ダメっぽい人らしい。

危害はなさそうだって思ったから、ちょうど健さんも茂みから出てきたし、後はもう無視。

【健さん】
「ニャ」
(早いな)

【本郷】
「健さん。いつもよりちょっと早いけど、餌、食べるだろ?」

【メンデレーエフ】
「ブミャーオ」
(お前の連れか)

うわっ! 何、この猫。

抱いてるおっさんとは比べものになんない迫力なんだけど……。

【健さん】
「ニャ」
(お騒がせします)

へえ。健さんより強いんだ。

健さんが礼儀正しく目をそらして、歩いてく。

【本郷】
「じゃあ、そっちのベンチ行こう」

健さんに追いついてそばのベンチに歩いていく俺の背中を、おっさんの溜息が追いかけてきた。

【野並】
「はぁ……。警察に通報されるかと思いましたよ」

するかよ、バカ!

そう思ったけど、口に出すような馬鹿なまねはしない。